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東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)17号 判決

一 特許庁における本件手続の経緯(本件特許権の帰属、譲渡の点および本件特許発明の権利範囲に属することの確認を求める対象が別紙(二)の(イ)号図面および説明書記載のとおりのものであることを含む。)、本件特許発明の要旨および目的効果、本件審決の理由の要旨についての請求原因第一ないし第三項の事実は、すべて当事者間に争がない。

本件特許発明の要旨は、右争のない事実のとおりであるが、成立について争のない甲第三号証(本件特許発明明細書)によれば、(一)本件特許発明は、電子加速グリツドを有する電子またはイオンの放電装置、例えば真空管、ブラウン管、光電管、二次電子逓増管、電子送像管等において、制御グリツドG1の電圧の変化にともない、電子加速グリツドG2に高周波拡大電位が発生して右放電装置の作動が不安定となることを防止するために、該加速グリツド電流Ig2の変化とほぼ反対にしかも量的には近似に変化してこれを補償する電流を生ずる補助電極Sを設けたものであり、(二)補助電極電流Isと電子加速グリツド電流Ig2との和を、制御グリツドG1の電圧の変化にかかわらず、ほぼ一定にすることにより、電子加速グリツドG2に中継交流電位が現われることを阻止するものであること、(三)右補助電極Sの実施の態様として、管内における他電極に対する記置関係、電位差関係を利用する場合と、グリツド状またはプレート状の補助電極を採用しこれに二次電子の放出を良好にさせる表面を与えることにより二次電子放出の効果を利用する場合とが示されていることが認められる。

そして、本件特許発明の要旨および右認定の事実によれば、本件特許発明においては、電子加速グリツド電流の変化とほぼ反対にしかも量的には近似に変化して電子加速グリツドの電流変化を補償する電流を生ずるとの特性を有する「補助電極」を設けることを発明構成の必須要件とする(このような「補助電極」の数については限定がない。)ものであつて、反面、電子管の有すべき右のような「特性」自体について特許が与えられているものでないことがきわめて明らかである。ひいてまた、電子管の電極の種類のいかんを問わず、その性質ないし効果において、右のような特性を併せ有する電極であればつまり何らかの意味において右の補償の条件を満たすものであれば、すべて本件特許発明における補助電極に該当するとすることができないことも、おのずから明らかである。

一方、(イ)号周波数変換管は、別紙(二)記載のとおり、加熱手段を有する陰極C、発振グリツドG1、加速グリツドG2、G4、入力グリツドG3、抑制グリツドG5およびプレートPを有し、その作動においては、入力グリツドG3に対する入力信号に対し、加速グリツド電流Ig2、Ig4と陽極電流Ipとの総和が近似的に一定な6WC5、6SA7GT等の周波数変換管である。

二 そこで両者を対比して考える。

1 本件特許発明は、前示のとおり、その電子加速グリツドG2に対し、その電圧が一定となるようこれを補償する目的で補助電極Sを設けたものであり、この補助電極Sは、電子加速グリツドG2とともに、本件特許発明の電子加速装置を構成し、電子加速度を一定にさせるものである。そして、その電子加速グリツド電流Ig2と補助電極電流Isとの和が、入力のいかんにかかわらず、ほぼ一定なことを要件とする。

これに対し、(イ)号周波数変換管は、陰極C、発振グリツドG1、加速グリツドG2、G4、入力グリツドG3、抑制グリツド<省略>およびプレート(陽極)Pとからなり、その各極は、本件特許発明における補助電極の補償作用を指さない意味においてそれぞれその本来の独自の目的と作用とを有するものであり、かつ、その加速グリツド電流Ig2+Ig4はそれ自体をほぼ一定としているものではなく、これにさらに陽極電流Ipを加えた陰極電流Ig2+Ig4+Ipをほぼ一定とするものである。ことに、その陽極Pは、(イ)号周波数変換管において出力取出し極という重要な作用を営む極である。

さらに、本件特許発明明細書(前掲甲第三号証)中には、本件特許発明の補助電極が陽極をも含むことをうかがわせるに足りる記載は、まつたくないばかりでなく、かえつて、右明細書第三図によれば、補助電極は、これに陽極を含まず別個の電極として考えられていることを推認できるし、その補助電極の名がうかがわせるようにむしろ構成上電子加速グリツドに付帯する物とみるのが相当である。そして、本件特許発明の実施されるべき放電装置においては、この補助電極を欠除したとしても、電子管としての作用を営むこと自体は可能であるが、(イ)号周波数変換管においては、その陽極Pを欠除するにいたると、それは周波数変換管としての機能を失つてしまうから、たとい、(イ)号周波数変換管の陽極Pが一回において本件特許発明の補助電極と同様にその加速グリツド電流を補償する作用を有するとしても、周波数変換管として不可欠のその陽極Pを、本件特許発明の補助電極と同視することはできない。

以上の諸点を考え合わせると、(イ)号周波数変換管においては、その陽極(プレート)はもちろん、その余の電極についてみても、一の項で判断したとおりの特性をもつ本件特許発明における「補助電極」に該当するものと認めうる電極がないといわなければならない。

2(一) 原告は、本件特許発明の補助電極Sは電子加速グリツド電流Ig2の変化を補償するすべてのものを指し、補助電極電流Isが単一に構成されているかΣIsとして構成されているかは問題ではなく、ΣIsの中には陽極電流Ipも含まれるから、(イ)号周波数変換管が、その加速グリツド電流Ig4の電流変化とほぼ反対にしかも量的には近似に変化してその電流変化を補償する電流を生じさせる加速グリツドG2および陽極Pまたは加速グリツドG2(原告は、ここで加速グリツドG2を補助電極という。この場合については、つぎの(二)の項で判断する。)を有する以上、(イ)号周波数変換管は本件特許発明の権利範囲に属すると主張する。

けれども、原告の右主張は、(イ)号周波数変換管の特性が、陰極電流Ig2+Ig4+Ipが一定であることを理由として、その結果電子加速グリツドに中継交流電位が生じないということにある現象を取り上げて、第二グリツドG2および陽極Pを第四グリツドG4の補助電極と称しているだけであつて、たとい、(イ)号周波数変換管に、その加速グリツドG2に中継交流電位が生じないという本件特許発明と同一の特性があるとしても、前示のとおり、本件特許発明の主要な構成必須要件はそのような特性を有する「補助電極」を設けることにあつて、電極の種類にかかわらず広くこのような「特性」自体に権利が認められているわけではないことおよびこのような特性を持たせるための技術手段は、本件特許発明においては、電子加速グリツドにこれとともに補助電極を設けたことであり、一方、(イ)号周波数変換管においては、陰極電流Ig2+Ig4+Ipをほぼ一定にさせたということにあり、つまり、両者は、電子加速グリツドに中継交流電位が生じないという現象は同一であるとしても、これを具現するための技術手段を本質的に異にするものといわなければならないことから、とうてい、原告の右主張のように解することはできない。

(二) また、原告は、(イ)号周波数変換管の陰極電流Ig2+Ig4+Ipのうち陽極電流Ipはきわめて小さいから、第四グリツド電流Ig4を補償するものは実質的には第二グリツド電流Ig2であり、この意味で第二グリツドG2は本件特許発明の補助電極に該当すると主張する。

けれども、(イ)号周波数変換管においては、陰極電流Ig2+Ig4+Ipがほぼ一定であることを要件とするから、これから陽極電流Ipを除外して考えることはできず、したがつて、陽極電流Ipの小さいことを理由として、(イ)号周波数変換管において陽極電流Ipを除いた加速グリツド電流Ig2+Ig4がほぼ一定であるとする原告の主張は、(イ)号周波数変換管の要旨を逸脱したものとのそしりを免れないばかりでなく、しかも、同変換管において、第二グリツド電流Ig2が第四グリツド電流Ig4を補償するとの点については、原告がこれを立証するために提出した成立について争のない甲第四号証およびこれについての証人安藤博の証言部分も弁論の全趣旨に徴してにわかに採用できず、他にこれを認めしめるに足りる証拠はないから、第二グリツドG2を第四グリツドの補助電極とすることはできない。

(三) 原告は、(イ)号周波数変換管が本件特許発明の権利範囲に属するとし、種種主張するところがあるけれども、以上に直接判断したもののほか、すべて右判断に副わないものであるから、いずれも採用できない。

三 右のとおりである以上、(イ)号周波数変換管は、本件特許発明構成の必須要件である補助電極を有せず、したがつて、本件特許発明の権利範囲に属しないものと認むべきであり、結局、本件審決は相当に帰する。

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